特養が介護保険施設の中でも“終のすみか”であることは前回の記事で説明しました。
少しでも早期に特養入所するためには
今回は少しでも早く特養へ入所するにはどうすれば良いか、経験に基づき説明します。
まずは実際に特養入所に至るまでの流れを知る必要があります。
この記事が少しでも不安の軽減につながれば幸いです。
特養入所までの流れ
特養入所する方法は3つあります。
- 緊急入所措置
- 特例入所
- 優先入所
緊急入所措置
1つ目の緊急入所措置ですが、虐待等が発覚し、行政が生命を保護するためにとる措置のことを言います。行政からの受け入れ依頼が入れば、届出している定員のベッド数を超えて受け入れても差し支えないとされています。
2000年(平成12年)に介護保険がスタートする前は、役場に相談して施設を手配してもらう措置入所が一般的でした。
現在は虐待等の緊急時に限り措置入所という手段がとられています。
少し皮肉のように聞こえるかもしれませんが、高齢化に伴い行政が白旗を振る状態となり「措置」から「契約」という聞こえの良い言葉で民間に移行されたという経緯があります(もちろん、施設入所だけではなくサービスを拡充する意味も大きいとは思います)。
どこの特養も待機者が大勢いて、国が言うように選んで、納得して、契約が結べる特養などはないのが実態です。
特例入所
2つ目の特例入所ですが、原則要介護3以上が入所要件となっている特養で、例えば要介護2や1の人でも、ひとり暮らしで身寄りがなく、交通量が多い場所に家がある、家の前が線路で電車の往来があるなど、在宅生活は危険と判断される場合など、施設長の判断で入所できます。
補足
1つ目、2つ目、それから入所している人が入院して、想定外に早い段階で医療機関から退院してくる場合など、やむを得ない事由による定員が超過する場合、定員の5%まで減算されずに(ペナルティを受けずに)介護保険請求しても良いと認められています。
例えば、入所定員50床の特養については2人まで、定員100床の特養では5人までは減算されません。
ただしこうした取扱いは、あくまでも一時的かつ特例的なものであることから、すみやかに定員超過を解消する必要があります。
優先入所
そして3つ目の優先入所ですが、これが最も一般的な入所スタイルとなります。
そのためには、特養入所までの流れを理解する必要があります。
特養入所までの流れ
求められるケアマネの力量
申込者は同意欄の署名のみで、内容は基本的にはケアマネージャー(介護支援専門員)が書きます。本人が入院中の場合などは病院から情報提供を受けて作成します。
※申込書の書式は市町村によってことなるので注意しましょう。
よく申込予定の欄を「貴施設のみ」としたほうが早く入所できるのではないかと誤解される人が多いですが、まったくそんなことはありません。むしろ「他施設にも申し込む 60箇所」などとなっているほうが、受け取る側は「緊急性が高そう」と感じます。
特養は入所申込書を受け取ると「入所判定会議」を行います。施設の規模によって毎週行うところもあれば、月に1度の施設もあるかと思います。
この入所判定会議は合議制で、施設長、相談員、介護主任、看護師、栄養士、民生委員等の第三者といったメンバーで行われます。
話し合う内容は緊急性についてです。緊急性以外のことは話し合いません。
判定会議では一度に何人もの申込者の話し合いが行われます。結果は点数化され、優先入所一覧に登録されます。

一覧表は一列に順位が並んでいるのではなく、まず判定会議で申込書をもとにグループ分けを行います。
- 要介護度3で比較的元気な人なら「軽度介護」
- 認知症自立度は低くても寝たきりの人は「重度介護」
- 動作は軽快も重度の認知症の人は「重度認知症」
といったように、そして男女の6グループに分けます。
施設によってはこの順位が数百人の待機リストもあり、カテゴリー分けは様々です。
一度の判定会議で何人もの入所希望者の話し合いが行われます。そこで用いられる資料(ケアマネ作成の入所申込書)の内容で合議結果の点数に大きく差が出ます。
つまり、力のあるケアマネが作成した入所申込書は別紙などが付いて情報も多く、緊急性が高く感じられ検討時間も増え、結果的に高得点がつくことが多く、逆に内容の薄いあっさりした内容の申込書は「そんなに緊急性ないのかな?」と議論も短時間で終了します。
施設は平均要介護度を保つ
退所者が出てベッドに空きが出ると、その退所者に応じて優先入所リストから上位の人に入所の案内をします。
つまり、施設内の平均要介護度が高くなってきているようであれば「軽度介護グループ」1位の人に入所の案内を行い、その逆も然りです。
退所者が男性であれば男性の1位の人に入所案内を行います。
議論は本人の状態(要介護度)だけではない
入所申込書を受理した施設は判定会議で検討するのですが、話し合うのは本人の状態だけではありません。




※施設によって判定会議の合議内容、使用する点数表はことなります。
特養入所は遠方も視野に
逼迫した状況なら、ケアマネージャーに作成してもらった申込書を受け取り、多めにコピーをとって(ケアマネに多めに印刷してもらうなど)、印鑑を朱肉で押印して(印鑑だけはコピーにならないように)複数の施設へ直接でも郵送でも構わないので申し込みます。
特養は老健と違い、比較的家族の協力を必要としません。
老健は在宅へ帰ることが前提なので洗濯物やその他なにかと家族の協力が求められます。
一方特養は、「特別」と名称に冠がついているだけに事情があって在宅生活が維持できない人が対象です。入所後家族やキーパーソンに求めることを挙げれば、入退所契約時の立ち会い、施設職員では判断できないことの相談(電話でも可能)くらいでしょうか。
体調急変時に延命するかどうかは入所時に意思確認は行います。
つまり入退所時と緊急時に協力が得られれば日常的な協力を要する場所ではありません。
京都の特養に入所している身元引受人が熊本の人であったり、その逆も然りです。コンスタントに面会に行きたい気持ちは理解できますが、申込先を広げるのもひとつの手段です。
※施設が従来型か新型かで月々負担する利用料金に差があります。前回の記事を参考に、申し込む前に利用料金を確認しましょう。
申込理由が重要
しかし、いくら複数の施設へ申し込んでも内容に緊急性が感じられない申込書は、施設は緊急性が低いと判断し、最悪の場合、優先入所の名簿に載らないこともあります。
では、原則ケアマネージャーが作成する書類で判断されてしまう特養入所を早めるにはどうすれば良いのでしょうか。
ケアマネージャーを変更する
逼迫した状況でもっとも有効な手段は申込書を作成する担当ケアマネージャーを変更してもらう方法です。役場で相談することで変更してもらえます。詳しい理由は伝えなくても結構です。信頼できて熱意のあるケアマネージャーに出会えるまで変更してもらいましょう。
私がかつて特養入所担当をしていた頃、半年から1年入所希望者の一覧に埋もれていた人が、ケアマネを変更したところ本人の状態や周囲の状況に大きな変化なく、2ヶ月ほどで入所に至ったケースがありました。
力技なところもあったのですが、京都市、京都府、さらには厚労省まで陳情して「可能な限り早期に入所させるように」と第三者からの一筆が書かれた文書が添付されたことが決定打でした。
第三者からの一筆が書かれた文書があれば(法的な意味はなくとも)入所後の監査等において「なぜこの人を優先的に入所させたのか」と問われた際に、その第三者からの一筆が(贔屓したわけではないという)根拠になるわけです。
つまり、それほどケアマネによって技量に差があるということです。
別紙手紙を添付する
もうひとつ誤解される内容で多いのが、「申込書を施設に届ければ、あとは声がかかるのを待つのみ」と思われていること。
悲しい事実ですが、実際は逆です。
毎週、毎月行われる入所判定会議により、後から申し込みをした人たちが上位に入り、どんどん自分の順位が下降していきます。
それを防ぐためにも、少しでも状況が変わればケアマネージャーに報告して追加の申込書、または家族から手紙を出すことです。
頻繁に、やみくもに手紙を出すことは効果的ではありません。数ヶ月、半年ごと、少しでも状況に変化があれば記載して施設に届けることが重要です。
記載することは本人の状態だけではありません。
介護者の状態、住宅の状況、経済状況、その他申込後の変更点があれば追加情報として施設へ届けましょう。
すると、受け取った施設は再度判定会議(再判定)をします。同列順位が多い中、1点でも上がれば何十人も順位があがることも少なくありません。
どんどん順位が下降していく進行を止めなくてはいけません。
そして再判定を繰り返すことで、判定会議のメンバーも「早くこの人に入所してもらいたい」という心境になります。
入所判定会議は機械が行なっているわけではなく、合議制で話し合って行われているので、メンバーの感情に変化が生じて「なんとかしたい」と思うのが人情です。
それが結果的に早期に入所の声がかかる方法となります。
まとめ
早期に特養入所するためのポイント
- 特養入所までの流れを理解する
- 入所の基準は「緊急性」のみ
- 申し込む範囲を広げる
- 申込後もアプローチする
以上が少しでも早期に特養入所を実現するための方法でした。
施設側にもジレンマがあって、心情的には「早くこの人に入所してもらいたい」と思っていても、緊急入所措置など行政からの依頼で優先入所順位と定員を超えて入所することなどが繰り返し行われると、いっそ申し込み順の方がフェアだったのでは?と感じることもあります。
いずれにしても介護保険制度がスタートし、当初は手厚かった社会福祉法人への補助内容も財政難とともに薄くなり、民間が参入するインセンティブが低く、全国的に施設の絶対数が足りていないことが問題です。
決して他人事ではないこの問題をどう解決すべきでしょうか。
国民全体で社会保障の仕組みから議論する必要があるのかもしれません。
今回の記事が逼迫した状況に置かれた人にとって少しでも役立つ内容であれば幸いです。